需要予測はサプライチェーン管理(SCM)において重要であり、生産計画や在庫管理、顧客サービスの最適化などに不可欠な要素です。
需要予測を改善するためには、予測精度の評価も怠れません。
本コラムでは、「需要予測における予測精度の評価」というテーマについて、SCMやDXの担当者が行うべき手順を具体的な事例を交えて解説します。
1.予測精度を評価する際のプロセス(前回の復習)
前回のコラムでは、予測精度の評価プロセス全体についてと、予測精度を評価する際の代表的な指標について解説しました。
予測精度の評価プロセス全体を改めて記載すると、以下のとおりです。
① 適切なデータセットの選択
② 指標による評価
③ 誤差の原因分析
④ 評価を踏まえたモデル更新
今回のコラムでは、以下のようなサンプルデータを用いて予測精度の評価プロセスを解説します。
古いモデルから新しいモデルに変更した際に、どれくらい予測精度の改善が見られたかを検証していきます。
▼サンプルデータ(4年分の月次データ)
年月 | 実測値 | 古いモデル | 新しいモデル |
---|---|---|---|
Jan-20 | 104 | 155 | 129 |
Feb-20 | 118 | 168 | 132 |
Mar-20 | 138 | 204 | 157 |
Apr-20 | 152 | 154 | 190 |
May-20 | 133 | 149 | 130 |
Jun-20 | 136 | 193 | 149 |
Jul-20 | 94 | 103 | 108 |
Aug-20 | 70 | 76 | 73 |
Sep-20 | 62 | 89 | 68 |
Oct-20 | 50 | 51 | 62 |
・・・(続く) |
2.指標による評価
まず、予測精度を一般的な指標で数値的に評価します。今回は、サプライチェーンでの需要予測でよく用いられる「平均絶対パーセント誤差(MAPE)」を計算します。
MAPEは、予測値と実績値との差の絶対値を実績値で割って、パーセントで表したものの平均を計算することで、求められます。
誤差率の計算
まず、2020年1月の実績値と古いモデル、新しいモデルそれぞれの誤差率を計算します。
年月 | 実績値 | 古いモデルの予測値 | 新しいモデルの予測値 |
---|---|---|---|
Jan-20 | 104 | 155 | 129 |
古いモデル:| 104 - 155 / 104 | = 0.500
新しいモデル:| 104 - 129 / 104 | = 0.245
Excelを用いる場合、ABS関数で絶対値が求められます。すでに何らかの需要予測ツールが導入されている場合、ツール内の機能を用いることもできます。
誤差率の平均の計算
古いモデルと新しいモデルそれぞれについて、実績値との誤差率を全て計算し、それぞれの平均値を計算します。
▼サンプル 誤差率の結果
年月 | 実測値 | 古いモデル | 新しいモデル | 古いモデル 誤差率 | 新しいモデル 誤差率 |
---|---|---|---|---|---|
Jan-20 | 104 | 155 | 129 | 0.500 | 0.245 |
Feb-20 | 118 | 168 | 132 | 0.423 | 0.119 |
Mar-20 | 138 | 204 | 157 | 0.477 | 0.140 |
Apr-20 | 152 | 154 | 190 | 0.014 | 0.246 |
May-20 | 133 | 149 | 130 | 0.117 | 0.025 |
Jun-20 | 136 | 193 | 149 | 0.416 | 0.093 |
Jul-20 | 94 | 103 | 108 | 0.093 | 0.143 |
Aug-20 | 70 | 76 | 73 | 0.092 | 0.041 |
Sep-20 | 62 | 89 | 68 | 0.438 | 0.107 |
Oct-20 | 50 | 51 | 62 | 0.024 | 0.247 |
・・・(続く) |
すべての予測について誤差率が計算できれば、あとは評価をしたい予測期間全体における誤差率の平均を求めます。
Excelを用いる場合、AVERAGE関数で平均が求められます。すでに何らかの需要予測ツールが導入されている場合、ツール内の機能を用いることもできます。
古いモデルのMAPE:0.279 = 28%
新しいモデルのMAPE:0.128 = 13%
よって、MAPEベースでは、古いモデルから新しいモデルへの変更にあたり約15%精度が改善したことが確認できます。
3.誤差の原因分析
上記を踏まえて、さらなる精度改善に向けて、誤差が特に大きくなっている時期やその背景にある原因等を、定性的な情報と掛け合わせて分析していきます。
原因の分析をする一つの手段として、サンプルデータの新しいモデルの誤差率について、四半期ごとに見てみます。 例えば、以下のように集計すると、2020年と2022年は第4四半期(10月〜12月)の誤差率が比較的高かったのに対して、2023年は、年間を通じて10%を超える誤差率となっています。

よって、2020年と2022年の第4四半期には何か特別な出来事がなかったか、2023年は全体的に何が影響をしているのか、原因の仮説を立てるために調査する必要があります。
より詳細な原因の仮説を立てるために、営業部隊にヒアリングをすることもできるでしょう。
4.評価を踏まえたモデル更新
最後に、今回の需要予測の精度評価を踏まえて、モデルの更新を行います。
例えば、「3. 誤差の原因分析」において営業部隊へヒアリングを行ったことで、2020年と2022年の第4四半期には、テレビCMで商品のプロモーションを行なっていたことがわかりました。
また、2023年の誤差率の全体的な上昇については、競合商品の影響がありました。競合商品の登場によって自社商品の需要が落ち込みつつあるにも関わらず、モデルで過剰に需要予測を行っていました。
よって、モデル更新として、テレビCMを実施する際には2020年と2022年の実績を踏まえて多めに需要予測を行う、競合商品が登場した際には2023年の実績を踏まえて過小に予測を行うようなチューニングが実施できます。
上記の原因による需要の変動がおさまってきた場合は、再度通常のモデルになるようにチューニングし直すことも可能です。
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